長谷川英祐『働かないアリに意義がある』

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

第1章 7割のアリは休んでる

◎7割ほどのアリは巣の中で何もしていない
◎生まれてから死ぬまでほとんど働かないアリもいる
◎卵の世話など、巣にはほんの短時間でも途切れてはならない作業がある
◎ハチもアリも、若いうちは内勤で、老いると外回りの仕事に就く傾向がある
◎一つの仕事を続けたアリでも、熟練して効率があがるわけではない
◎大きな組織に所属するアリは身体のつくりが雑
◎道を間違えるアリが交ざっているほうが、エサを効率よく取れる場合がある
◎兵隊アリは喧嘩になると逃げる


第2章 働かないアリはなぜ存在するのか?

◎ハチやアリには刺激に対する反応の違いという「個性」がある
◎個性があるから仕事の総体がまんべんなく回り、コロニーに有利
◎仕事が増えると働かないアリも働くようになる
◎働かないアリは鈍い、むしろ「働けないアリ」である
疲労という宿命があると、働かないアリのいる非効率的なシステムのほうが長時間存続できる


第3章 なんで他人のために働くの?

◎真社会性生物は、血縁を附けることが自分の遺伝子を将来に多く残す結果になる(血縁選択説)
◎利他行動の根拠を、特に働きアリと妹の遺伝子が4分の3重なる性質に求めるのが「4分の3仮説」
◎一部のハチやアリでは遺伝子の関係上、ワーカーから見たオスの価値はメスの3分の1
◎利他行動の根拠を、群れることの相乗効果で説明するのが「群選択説」
◎人間の滅私奉公も、将来的な報いを期待する「生物としての進化」らしい


第4章 自分がよければ

◎ある種のアリのコロニーには、働かないで自分の子を生み続けるフリーライダーがいる
フリーライダーが増えすぎると、そのコロニーは滅びる
フリーライダーが滅ぼしたコロニー跡に通常型の新しいコロニーが生まれ、社会全体ではフリーライダーの数は一定に保たれる
◎コロニー同士が混ざった場合、両方に跡継ぎがいると血で血を洗う戦いになる
◎全メンバーがクローンで、コロニー内に遺伝的対立のない究極の利他(利己?)的な社会をもつアリがいる
◎女王が自分のクローンを、王が女王の腹を借りて自分のクローンをつくり、メスとオスが「別種」になっているアリがいる


第5章 「群れ」か「個」か、それが問題だ

◎生物が群れをつくると、自分が食べられる確率がさがる「捕食回避」効果がある
◎自分がエサを食べているあいだ、仲間が周囲を警戒してくれる防衛効果もある
◎数が集まると、短時間で作業が完了する効果もある
◎群れのなかに伝染病などのリスク(危険)が発生すると、全滅の危機もある
◎様々な遺伝子が混在する社会では、裏切りを防ぐ監視システムが進化することがある
◎理想的なはずのクローン社会が多数派にならないのは、多様性がないと伝染病に弱く、分業もスムーズにいかないためらしい
◎利己者の圧勝を防ぐためには集団内に構造が必要になる


終章 その進化はなんのため?

◎どのような進化が起こるかの予測は、理想的な集団でしか成立しない
◎理論には必ず前提とする仮定があるので、仮定がなりたたない場合、その理論は役に立たない
◎まだ見つかっていないことを示すのが学者の社会貢献
◎説明できないものは説明できない

動物の社会に共通しているのは、不完全な個体から完全な群体が進化したのではなく、完全な個体から不完全な群体が進化したという流れです。(p162)

複数の個体が集合して暮らすコロニーという群体。遺伝的に不均質な個体が協力するそのシステムが、個体の適応度を最大化するという進化の法則とあいまって、裏切り、抜け駆け、なんでもありの個と群を巡る無限のらせんを描きます。個が立ちすぎれば群もろとも滅び、他者のために尽くせば裏切り者に出し抜かれる。この無限のらせんから逃れるすべはないのでしょうか。ここでもう一度、個体のなかの細胞群を思い出してみれば、可能性が見えてきます。
複数の細胞が集まって協同する多細胞生物では、たったひとつの受精卵が分かれて増えた遺伝的に均質な細胞が様々な器官に分化した結果、細胞間の進化的対立のない完全な群体を作ることに成功したのでした。ということは、個体が集まったコロニーでも、個体間に遺伝的差異がなければ、裏切りの根源である「誰が繁殖すると自分が得なのか」という進化的対立が生じないことになります。そんなシステムは不可能なように思えますが、事実は小説より奇なりというやつで、人間の思いつくたいていの現象は生物の世界に存在します。(p163-164)

キイロヒメアリ
G213 キイロヒメアリにおける完全産雌単為生殖 : 低分散・局所適応仮説
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006893551

進化は、永遠に終わることのない過程ですが、もしも「完全な適応」が生じれば進化は終わります。私は講義のなかで学生に「すべての環境で万能の生物がいれば、進化は終わるのか?」という問いを必ず投げかけます。全能の生物がいれば、どのような環境でも競争に勝てるため、世界にはその生物しかいなくなるからです。進化とはそんな、存在しない「神」を目指す長い道行きだともいえるでしょう。と同時に、なぜそのような生物が存在しないのか、理由を考えることも、生物を理解するうえでは大切な姿勢だといえるでしょう。(p180)

進化は神への長い道だとたとえましたが、世界は常に変わっているので、神の姿も変わり続けます。要するにゴールはないし、どうすればゴールに行けるのかも永遠にわからない、ということです。(p186)